猫背矯正?

定期的に来室されている方が「久しぶりに会った友達に、姿勢が良くなった、何をやってるの?と言われました」と嬉しそうに報告してくださった。

姿勢の悪さは、主訴であることよりも、他の症状に加えて「猫背が気になっていて…」と言及されることの多い症状である。

年齢を問わず女性の訴えが多いのは、背中が曲がっているとどうしても年を取って見えがちなので、美容の観点から気になる方が多いのだろうと思っている。

さらに、巷に「猫背矯正」などの広告があることも、その一因なのかもしれない。

猫背だけでなく、縮毛などもそうだと思うが、”矯正”と書かれると、急にその状態は正しくない、正すべきなのだ、という思い込みが生まれる気がする。

もちろんそのことに悩んでいる人が多く、商売になるということなのだろうが、殊に体や心に関して何かを”異常”と決めて”矯正”することに対して、私は慎重でありたいと思う。

人間の背骨は生理的湾曲といってゆるいS字カーブを描いているので、背中部分の骨は元々少し丸みを帯びている。

加齢に伴って骨盤が後ろに下がる影響でその丸みが強くなるのが猫背の最も大きい理由だが、それ以外にも、前かがみの姿勢で仕事を続けたために胸側の筋肉が縮んでしまうこともあるし、長年食べ過ぎている人は背中の一部が強張って丸くなってくる。

また、若い時から猫背気味で、それがその人にとっては自然な体である場合もある。

時々、高齢の方から「姿勢を良くしようと思っても出来ないんです」と悲しそうな”言い訳”を聞くことがある。

どうやら子どもの頃に「姿勢を良くしなさい、背筋を伸ばしなさい」と親や先生から厳しく言われた記憶が強く、年をとって体が変わったのに、意志力で”ピンと伸びた正しい姿勢”を取ろうとするがうまくいかない、ということのようだ。

先述の女性は、治療で全身のバランスが改善した結果、他人から見ても姿勢が良くなったのだが、だからと言って子どものようなピンとした背中になったわけではない。

そもそも、”良い姿勢”という言葉で連想される”気をつけ”のような姿勢は、ある意味不自然で長く保てるものではない。

年齢やその人の体に応じて、バランスの取れた無理のない姿勢になると、動きやすいし、胸が広がって呼吸が楽になり、気分も明るくなるはずである。
「猫背矯正」のインパクトは強いけれど、猫背に限らず、体のことでは正しさよりも快適さを判断基準にした方が、良い結果につながりやすいと思っている。